『蛙に学ぶ』

「かえる」についてのさまざまな知見を得て、さらに「かえる」が人間文化とどのように関わっているのか、を調べています



「マクベス」特集(『シェイクスピア物語』編)

翻訳違いで味わう日本語シリーズ!

ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の四大悲劇『マクベス』(wiki)に登場するカエルを紹介する。

原書の戯曲では、一幕一場の魔女のセリフから始まり、四幕一場の鍋で秘薬を調合するシーンに登場。

今回は翻訳者ごとに味わってみよう。
とその前に、このページは入門編。

かくいう管理人も、初めてシェイクスピアを読んだのは、子供用にアレンジされた「物語」を中学生だったか小学生の高学年の時だった。
実家の本棚に「シェイクスピア物語」というタイトルで、表紙はモーゼの十戒みたいな荒れ狂う波間におやじが立ってる(たぶんあらし=テンペストのイメージ)、、、というように記憶している。
数話入っていて、まぁ表紙にある、あらしは入っていたんだろうが、覚えておらず、真夏の夜の夢が入っていたのだけは覚えてる。

今なら翻訳者を真っ先に確かめるのだが、その当時は訳者違いで作品が一変する!などとは知る由もなく。
けれど、シェイクスピア物語なのに、作者が「ラム」って人だったったことだけは覚えているだっちゃ。
「シェイクスピア物語」は、1807年に刊行されたラム姉弟の合作で、シェイクスピア作品(戯曲)20編を物語化(散文)したもの。


 
ここからは「ラム」原作の翻訳違い。
『シェイクスピア物語 上 (岩波文庫)』
著:チャールズ ラム、メアリ ラム
挿絵:ルイス・リード
訳:安藤貞雄(Wiki)
発行:岩波書店 (2008/6/17)

「マクベス」より
 マクベスは、魔女を捜し求めて、荒野の洞穴に赴きました。魔女たちは、マクベスが来るのを予知していたので、恐ろしいまじない薬を調合していました。それでもって、地獄の悪霊を呼び出して、未来を見せてもらう算段でした。魔女たちの忌まわしい薬の材料は、ヒキガエル、コウモリ、ヘビ、イモリの目玉、犬の舌、トカゲの足、フクロウの翼、竜のうろこ、オオカミの牙、貪欲なサメの胃、魔女のミイラ、毒ニンジンの根(これは暗闇で掘らなくては効き目がない)、ヤビの胆嚢、墓地に根を下ろしているイチイの小枝を添えたユダヤ人の肝臓、死んだ赤んぼうの指でした。
 これらをすべて大釜に入れてグラグラ滾(たぎ)らせる。熱くなりすぎたとたんに、ヒヒの血で冷ます。それに子ブタを食った雌ブタの血を注ぎ込み、火炎の中へは、人殺しの絞首台からにじみ出た脂を投げ込みました。このようなまじない薬を使って、魔女たちは、地獄の悪霊が自分たちの質問に答えるように仕向けました。



『シェイクスピア物語 (岩波少年文庫)』
著:チャールズ ラム、メアリ ラム
イラスト:アーサー・ラッカム
訳: 矢川澄子(Wiki)
発行:岩波書店 (2001/9/18)

「マクベス」より
 魔女をさがして荒野(あれの)の洞穴(ほらあな)にいってみると、彼女らはマクベスのくることを見通していて、おそろしいまじないのさいちゅうでした。釜の中にはヒキガエル、コウモリ、ヘビ、イモリの目玉、犬の舌、トカゲの脚、フクロウの翼、竜のうろこ、オオカミの歯、貪欲なサメの胃袋、魔女のミイラ、毒ニンジンの根、ヤビの肝、ユダヤ人の肝臓、墓場に生えたイチイの木片、死んだ子供の指、がぐつぐつ煮えていて、熱くなりすぎるとヒヒの血でさまします。そこへ子豚を食べたメス豚の血をそそぎ、火には絞首台からしたたりおちた脂をくべて、このまじないで地獄の悪鬼どもに質問の答えをせまるのです。



『シェイクスピア物語(上) (偕成社文庫)』
著:チャールズ ラム、メアリ ラム
装丁:辻村益朗(Wiki)
訳:厨川圭子(Wiki)
発行:偕成社:改訂版 (1979/02)、初版: 白水社 (1963)

表紙の絵が超ステキ。
個人的にには、ラム版「シェイクスピア物語」の翻訳では、この厨川版がいちばん読みやすかった。

「マクベス」より
 マクベスは、魔女をもとめて、荒野(こうや)の洞穴(ほらあな)にでむいた。魔女たちはマクベスのくることを見通していたから、まえもっておそろしい魔力を使って、地獄の鬼どもをよびだし、将来どうなるのかを見せてもらうことにした。魔女たちのぶきみな材料というのは、ヒキガエル、コウモリ、ヘビ、イモリの目玉、犬の舌、トカゲの足、フクロウの翼、竜のうろこ、オオカミのきば、貪欲なサメの口、魔女のミイラ、毒ニンジンの根(これは暗闇で掘らなくてはききめがない)、ヤビの胆のう、ユダヤ人の肝臓、墓地にはえるイチイの小枝、死んだ赤んぼうの指。これらを大釜の大鍋の中でぐらぐら煮る。熱くなりすぎたと思うとすぐに、ヒヒの血でさます。それに子豚を食った雌豚の血をいれ、火の中へは、人殺しの絞首台からしたたち落ちたあぶらをくべる。さて、このような魔法を使って、地獄の鬼が自分たちの質問に答えるように、しむけるのだ。



『シェイクスピア物語 (岩波少年文庫)』
著:チャールズ ラム、メアリ ラム
さし絵:向井潤吉(Wiki)
翻訳: 野上弥生子(Wiki)
発行:岩波書店; 改版(1986/3/12)、初版(1956/5/23)

な、なんと!さし絵が向井潤吉!!

「マクベス」より
 かれは、魔女たちが荒野(あれの)の岩屋にいるのを探しあてると、かれらは、マクベスのくるのをちゃんと知っていて、まじないの用意にとりかかっていました。そのまじないで、下界の精霊を呼び出すのでした。まず、煮えたぎる大釜の中に、ヒキガエル、コウモリ、ヘビ、イモリの目、犬の舌、トカゲの脚、フクロウの羽、リュウのうろこ、オオカミの歯、大物ぐいの海ザメの胃袋、妖婆のミイラ、毒ニンジンの根、ヤギの肝、ユダヤ人の肝臓、墓に生えたイチイの小枝、死んだ子どもの指、といったものを入れて煮込み、熱くなりすぎるとショウジョウの血で冷ますのでした。そしてこの中に、子どもを食べた牝ブタの血を注ぎ、人殺しの絞首台からしたたった油をふりかけました。


「ショウジョウ」ってなんですか?(Wiki)⇒オラウータンのことでした。

『シェイクスピア物語』
著:チャールズ ラム、メアリ ラム
翻訳: 松本恵子(Wiki)
発行:新潮社; 改版 (1952/07)

「マクベス」より
 彼は荒野のほら穴のなかに魔女たちを見つけました。かれらはマクベスの来るのを予知していて、自分たちに未来を見せてくれる地獄の魔物を呼び出す恐ろしい薬の調製に取りかかっていました。その恐ろしい薬の材料は、ひきがえる、こうもり、へび、いもりの目、犬の舌、とかげのあし、ふくろの羽、りゅうのうろこ、おおかみの歯、大食いの塩海ざめの第四の胃、妖女のみいら、毒にんじんの根(この効果を得るには暗やみで掘らなければならないのです)、やぎの肝汁、墓に根のはっている水松(いちい)の枝を添えたユダヤ人の胆嚢、それに死んだ子共の指などでした。それらをみんな大がまの中で煮たて、熱くなりすぎると、ひひの血でさましそれに自分の子を食べてしまった雌豚の血をつぎ込み、火炎の中には殺人者の絞首台からにじみ出たあぶらを投げ込みました。



◆◆◆その他『シェイクスピア物語』の翻訳違い◆◆◆

『シェイクスピア物語』
イラスト:朝倉摂
訳:小田島雄志(Wiki)
発行:岩波書店; 改版 (1981/8/20)

小田島版『シェイクスピア物語』書き下ろしは、原書の魔女のシーンの持ち味を活かして書かれている。

「マクベス」より
 魔女たちの洞窟では、煮えたぎる大釜のまわりをまわりながら、三人の魔女が呪文をとなえていた―。
「釜のまわりをまわろうよ、
 腐った臓物ほうりこめ、
 まずは冷たい石の下
 三十一夜を眠りつつ
 毒の汗かくヒキガエル
 くらくら煮えろ、釜のなか。
  苦労も苦悩も火にくべろ、
  燃えろ燃えろ、煮えたぎれ。
 お次は蛇のブツ切りだ、
 ぐらぐら煮えろ、釜のなか、
 カエルの指先、イモリの目、
 コウモリの羽、犬のべろ、
 マムシの舌先、蛇の牙、
 フクロウの羽、トカゲの手、
 苦労と苦悩のまじないに
 地獄の雑炊煮えたぎれ。
  苦労も苦悩も火にくべろ、
  燃えろ燃えろ、煮えたぎれ……。」



『シェイクスピア物語集―知っておきたい代表作10』
著:ジェラルディン マコックラン
イラスト:ひらいたかこ
訳:金原瑞人(Wiki)
発行:偕成社 (2009/01)

マコックラン創作は、ところどころに原作のセリフの引用や、文章もドラマチック(創造が誇張され過ぎてる感もあるが)な仕上がりになっている。

「マクベス」より
 暗い洞窟のなか、泡だつ大釜からは悪臭が立ちのぼっている。三人の魔女がすわって黒魔術をおこなっているところだった。カエルとヘビと、コウモリとミミズの肉、犬とトカゲとトラと、殺された人間の内臓―それらをすべて、いやなにおいのする釜のなかに放りこむ。そして血。血はいつも入れることになっている。夜の闇は不気味な魔術にみち、魔女の女王ヘカテまでは、この邪悪な呪文を用意するのに加わっていた。



『マクベス (シェイクスピア名作劇場4)』
著:斉藤洋(Wiki)
イラスト:佐竹美保
発行:あすなろ書房 (2014/11/25)

斉藤洋に至っては、もう、脚色を通り越して創作であって、シェークスピア原作ってだけの代物になっている。
プロローグ以外は、マクベスの一人称で語られる斉藤版『マクベス』。
ドイツ語が専門の斉藤が、古英語の「マクベス」を読んで再話しなおしたのか?
日本語のだれかの作品を下敷きに斉藤ワールドを展開したのか?
カエルが登場するのは冒頭だけで、大釜のシーンは全部削られている部分に、他の「シェークスピア物語」と違いが見えるが、斉藤は、他の人がやっている作りにしたくなかっただけのように思えてならない。

「マクベス」より
 雷鳴がとどろき、稲妻が光る。はげしい雨の中。
おどっているのか、三人の魔女が手をあげたり、おろしたり、脚を閉じたり、開いたり……。
奇妙に体をくねらせながら、なにやら愉快そうに話をしている。

「三人で次に会うのは、いつがいい?」
「あれやこれやがおさまって、戦いに負けて、勝ったときさ。」
「それなら、もうすぐ、日暮れまえだね?」
「どこで?」
「あの荒野にきまっているさ。」
「あそこでマクベスに会うんだね。」
「いくよ、化け猫」
ヒキガエルだって、呼んでるさ。」
「すぐいくよ。」
「きれいはきたない。きたないはきれい。よどんだ大気と霧の中、飛んでいこう。」

最後に声をそろえて、そう言うと、どしゃぶりの中、ひとり、またひとりと姿を消していく。稲妻が長く尾をひき、近くに落雷。轟音とともに、泥水が高く舞いあがったとき、最後のひとりもいなくなった。



カニグズバーグが書いた児童書『魔女ジェニファとわたし』にも、マクベスが登場する。

『魔女ジェニファとわたし (岩波少年文庫) 』
作・絵:E・L・カニグズバーグ
訳:松永ふみ子
発行:岩波書店; 新装版 (2001/5/18)

魔女ジェニファがマクベスを引用している部分。

「マクベスに「でてくる魔女たちは、すばらしい秘薬を調合したのよ。とぶくすりじゃないけど。災難をおこすくすり。そのときも、第一の原料はヒキガエルなの。」ジェニファはわたしをじっとみながら、詩を暗誦しました。

   かまのまわりを ぐるぐるまわり
   毒のはらわた ほうりこめ
   これ ヒキガエル 冷たい石かげで
   三十一日 よるもひるも
   毒の汗をかいて ねむったやつめ
   おまえが まっさきに かまで煮えろ

ジェニファは詩を暗誦しているあいだじゅう、ずっとわたしをみていました。
「マクベスがそういったの?」
「ちがう、ちがう。」ジェニファはわたしをしかりつけました。
「マクベスは魔女じゃないわ。魔女たちが災難のくすりをかきまわしながらそういうのよ。まっさきにヒキガエルをかまで煮たんでしょ。」



★★★おまけ★★★


関連記事
スポンサーサイト
テーマカエルの本 ジャンル本・雑誌
Comments


学部
ジャンル
最新記事
儲かるリフォーム―マンションの資産価値をアップする鉄則55
藤浩志のかえるワークショップーいまをかえる、美術の教科書
新刊発売中!『かえる文庫1 アート編』
『お願いっ!かえる様』と『かえる旅こんな処にカエル編』
カエルの楽園
カウンター
楽天
参加してます!
応援してます!
「学び」「考え」「続ける」時間の中に飼っているカエルたち―それが、カエル・チャレンジャーズ!

Archive RSS Login